【八月のシンデレラナイン】甲子園を目指す少女たちの青春野球シミュレーション

『八月のシンデレラナイン』、通称『ハチナイ』。
開発は日本のアカツキ。2010年に設立されたソーシャルゲームの会社です。
このゲームはかなり面白い着眼点を持っていて、それが「女子野球」というものです。

 

元々、ハチナイの前身として、『シンデレラナイン』というものがありました。
いえ、2020年8月現在でまだ続いているので、前身という言い方は正しくないかもしれませんね。
こちらは2011年にモバゲーをプラットフォームとしてリリースした、いわゆるガラケーでのプレイを前提とした携帯ゲームです。
そこからスマホ用にブラッシュアップし、本格的な青春野球ゲームとして、ハチナイは生まれました。

 

でも、生まれたには生まれたんですが、そこまでには結構な苦労がありました。
そもそも2016年の夏にリリースされる予定が、秋までずれこんだ上に配信の大幅延期を発表。
このまま永遠に出ないんじゃないか」とファンをやきもきさせた後、1年後の2017年6月末についにリリースされました。

 

App Storeで無料ランキング第1位を獲得し、順風満帆!
……とはいきませんでした。
その後、新たに投入したイベントで大型の不具合。
そもそも、試合の動作が遅い。できることが少ない。

 

ユーザーの不満は募り、アクティブの人数は順調に下降線。
アカツキの出世作となった『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』が世界規模でのヒットでもあったため、「不肖の妹」扱いされる始末。

そこだけ聞いてると、かなりやばい。
ホントに面白いのか、そんなゲーム?

 

そういうふうに思われても仕方ありませんが、自信を持ってこのように答えましょう。
ええ、面白いんです。
追いかける価値があるコンテンツなんです。
その理由を、ここからしっかり説明させていただきます。

 

 

 

女子野球というユニークな観点で描かれる物語

舞台となる高校に入学した「あなた」は、かつて中学野球で名を馳せた名投手。
しかしながら、故障により夢を諦めていました。

その高校に、あなたを知る人物がいました。
メインヒロインとなる「有原翼」です。
彼女もまた女子野球に夢を賭け、それでも甲子園に行けないという壁を感じて一度は野球を諦めた存在。
ですが、あなたが同じ高校に来たのを見つけて、「やっぱり諦めきれない」とその情熱を燃やします。

 

そして、あなたは有原翼さんの説得によって、新設される女子野球部の監督に就任。
全国制覇を目指して始動するのでした。

 

と、まさに青春一直線の導入。
高校名やプレイヤーの名前は自由に決めることができます。
ちなみに、先に挙げた有原翼さん、趣味が「練習・特訓」という根っからの野球バカ。
ついでに学業もやばいレベルのバカなので、赤点に苦しむサブストーリーが用意されているほど。

 

ゲームの仕様として、同じ選手を同時に試合に出すことができ、かつ有原さんはやたらユーティリティ性が高い存在のため、「内野は全部翼でいいんじゃないかな」状態になることも。
投手としてもエース級なので、オール翼チームを組むことも可能です。

 

やや話がそれましたが、このように物語は入学してからの学校生活という形で語られます。
しかも、その物語は順番に見る必要はなく、チャプターが解放されていれば、時間軸が先のものからプレイすることも可能なんです。
あとは敵の強さとの兼ね合いになりますね。
イベントストーリーは、そうした中で「実はこういう話があったんだ」という形で進みます。

 

加えて、先にサブストーリーとして挙げた翼赤点事案。
こちらは少女たちのメインに連なる物語を見ながら育成素材を集める「デレスト」として、系統だって用意されています。
デレストは「シンデレラストーリー」の略で、ゲーム内でも基本的にはデレスト表記で統一されていますね。

 

こうした成長の物語が、30人を超える少女たちの個性豊かな描写でもって語られる。
ハチナイの魅力は、こうした青春群像劇にあると言えるでしょう。

 

 

 

 

内容はシンプルなのに、なぜかハマってしまう謎

ストーリーやキャラクターの面白さはわかった。
それじゃあ、ゲームとしてはどうなんだ。

 

こちらは試合が自動で進むタイプになり、必要に応じて適宜指示を出すことになります。
『実況パワフルプロ野球』の監督モードや「栄冠ナイン」を思い浮かべてもらえれば、理解が早いかもしれません。
それよりもカジュアルで、かつ日々洗練が進んでいる。
選手たちの成長ストーリーであるとともに、ゲームとしても成長している。

 

これもまたハチナイの面白いところです。
面白いところですが、裏を返せば成長する前はどえらい状況だったということ。
もちろんゲームというものに完璧はないでしょうが、ハチナイは特に「なんでそうなるの?」という現象がバグとして現れるのです。

 

他にもHACHINAIの英字表記はよく間違えられますし、キャラクターの誕生日で名前の漢字が間違えられることも。
さらにはランキングマッチの挙動も怪しいことが多々あり、「アカツキのデバッグ仕事しろ」と言われるのが通例になっています。

 

こういう事情から、時々ハチナイは臨時メンテナンスに入るのですが、その時間が大体13時~17時。
ただ、とりわけ昔の臨時メンテは時間通りに終わらないことが多く、17時を過ぎてもしょんぼりした有原翼さんの顔とともにメンテ継続の表示を拝むパターンばかりでした。
このことから、「メンテ定期」とプレイヤーからは揶揄されることに。

 

でも、シンプルなのに奥行きがあるゲームなのは確かで、それゆえに濃いユーザーが残っています。
また、先に述べた通りに一時は右肩下がりだったアクティブ数や登録者数も、アニメの放映のあたりから急増方向へ。
アニメの出来は作画がやたら不安定で、それもまたハチナイらしさという形で喧伝されました。

 

なんというか、「放っておけないコンテンツ」なんですよね、ハチナイは。
他にも面白いゲームはある。
かわいい女の子たちがいるゲームだってある。
それでも、ハチナイの魅力はハチナイにしかない。そう確信できるものがあるんです。

 

 

 

愛おしくなったら課金のターン

愛が深まってきたら、課金を考えるのも良いでしょう。
ハチナイは配布される課金アイテム「ナインスター」の量がだいたい渋く、ヘビーユーザーは大体が課金することを選びます。

 

極まってプレイし続ける人たちを「頭ハチナイ」と呼び始めたのは、さて、一体どこが発祥なのでしょうか。
それは本来蔑称であったにも関わらず、いつしか自分たちで誇りのように呼び合うフレーズにもなっていきました。

 

おそらく用語的にもプレイヤーの交流場的にも、大型掲示板5chの「なんでも実況J(ジュピター)」が発信源ではないでしょうか。
なんJによるハチナイ非公式wikiもあり、そこには脳をハチナイに占領されたやきうのお兄ちゃんたちによる、やたら偏った、しかし役に立つ情報が詰まっています。

キャラを存分にすこりたくなったら、そちらを覗いてみるのもいいでしょう。
ハチナイにおける深淵ではありますが、心地よい深淵であることは保証します。

 

とはいえ、どんなゲームもタイミング無視でザブザブ課金していたら、あっという間に一文無しです。
ハチナイも最近は定期的にナインスターのセールが開かれるので、そういうお得な時期を狙いましょう。

 

 

 

ハチナイは決して諦めない

「愛すべきちょっとダメなかわいい子」とも言えるハチナイ。
しかし、その根源にあるのは苦難の歴史です。

 

つらい状況を幾度となく切り抜けてきたハチナイは、ついにリアルイベントの開催を計画。
ただ、このリアルイベントが大抵思わぬ事態によって悲劇に見舞われます。
キャラクターの担当声優たちによるファン交流と歌の祭典、『ハチサマ』がその最も良い例でしょう。

 

2019年秋に開催される予定だったハチサマ3。
ハチサマ2が4月に開かれる「Spring Live」だったように、「Autumn Live」として羽村市生涯学習センターで開かれる予定でした。
そもそも、いくらハコが安いからとはいえ、東京都下の中でも結構なローカルである羽村市でやるあたり、いきなりのネタ性が漂う展開。
そこに、とてつもない勢力の台風19号が上陸。
ギリギリのタイミングではありましたが、苦渋の決断として開催中止となりました。

 

ならば、今度こそファンとの交流を。
その願いとともに計画された2020年3月のハチサマ4。
が、これもご存じの新型コロナの災禍により、中止せざるを得なくなる事態に。
それでも緊急事態宣言の前だったため、無観客LIVEとして配信できたのは不幸中の幸いだったと言えるでしょう。

 

「ハチナイのリアルイベントは、何かが起きる」

そんなふうにささやかれるのも、また愛ゆえなのかもしれません。
決してポジティブな「何か」とは限らないのですが。

 

それでも、ハチナイは元気にそのコンテンツを成長させ続けています。
ストーリーの進展とともに、新入生組として新キャラ5人が登場。
いよいよお互いの関係性に花が咲き、テキストもキャラクターの個性が出た充実したものとなっています。

 

ハチナイの各キャラは、有り体に言ってしまえば、「あまり売れていない声優さん」が多く担当されていることもポイントでしょうか。
彼女たちはそんな中でも健気に演じ、時にはツイッターなどで交流し、アニメで自分の担当キャラが出てくれば大いに喜び、ファンとの交流とライブができることを真心から感謝する。
その姿は、「現実の成長物語」として、ハチナイの魅力と強く結びついています。

 

もしも、コンテンツのリアリティとは、そうした現実の輝きも包含して考えるべきならば……。
ハチナイはどんな名作や大作にも負けない、精一杯の輝きを放つ「熱血女子の青春群像」を貫いていると申し上げる次第です。