【デレステ】そのアイドルたちは獣道を突き進み、いつしか王道を作った

『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』。通称『デレステ』。
そうしたゲームの名称を聞いても、「ふうん」という感想しか抱かないかもしれません。

しかし、一時期、中居正広さんがCMに出ていたアイドルゲームと聞くと、「あれか!」となる方は多いはず。

「アイドルは、やめらんない」

今は解散してしまったSMAPに暗雲が立ち込めてきていた時期だったので、様々な憶測を呼んだこのキャッチフレーズ。
ですが、デレステにとっては文字通りの意味。
アイドルという魔法に掛かったシンデレラたちにとって、やめられないし、やめたくなかったのです。

 

ただ、当時は別の意味でも衝撃が走りました。
中居正広さんを起用するともなれば、とんでもない額の費用が掛かるはずです。

つまり、それだけデレステは儲けているし、稼ぐことが期待されているコンテンツであるということ。
確かにアイドルマスターシリーズは、すでにバンダイナムコのキラータイトルになっていました。
本家アイドルマスターやその派生作品が、10年に渡ってコツコツと信頼と実績を積み上げてきたのです。

 

また、デレステもまた、前身に『アイドルマスター シンデレラガールズ』を持っていました。
モバゲーを配信プラットフォームとしていたので、通称『モバマス』や『デレマス』などと呼ばれていたこの作品は、アイマスのコンテンツとしての重要性をより高めた作品となりました。

 

そうして、舞台はスマートフォンに移り、かつて応援したアイドルたちが次々に3D化。
すさまじい勢いの中での、中居くんのCM登場だったのです。

「俺たちの課金が、本物のトップアイドルに化けた」

プロデューサーとなっているユーザーの間からは、そんな驚きの声まで漏れました。
では、デレステとはそれほどまでにすごいゲームなのか?
前身であり2020年8月現在もサービスを継続しているモバマスからの歴史も踏まえつつ、見ていくとしましょう。

 

 

 

ガチャ規制の道を開いてしまった偉大なタイトル

モバマスは2011年11月、DeNAのソーシャルゲームプラットフォームであるMobageにてリリースされました。
この頃にはアーケード、そしてコンシューマによって『アイドルマスター』というコンテンツの価値は確立されており、その人気は非常に高いものがありました。

 

そこへ優れたキャラデザインのゲームが、本家アイマスを超えるとんでもない人数で投入されたのです。
それが、モバマスという名の衝撃でした。

 

サービス開始当初から、モバマスはとんでもないセールスを叩き出します。
また、運営もそれに応えるようにして、様々に魅力的なガチャを提供していきました。

 

当時はモバゲー(Mobage)とグリー(GREE)が2大巨頭として覇を争っていた時代。
怪盗ロワイヤルなどのカジュアルなゲームが主流な中で投入された「最上級の美少女コンテンツ」は、ブランドの信頼性もあって壮絶な勢いで支持されたのです。

 

そして、当時はガチャというシステムの射幸性が強く問題視され始めた時期でもありました。
極端に言ってしまえば、ガチャというものはパチンコやパチスロのようなギャンブルと変わりません。

 

きらびやかな演出で、大当たりを狙う……しかも手に入るのは電子データだけです。
そんな状況を外野から見て、「ポチポチゲーに金をつぎ込む哀れなやつら」と思う人たちがいたのも無理からぬことでしょう。

 

2011年の末から2012年の始めごろは、すでにスマートフォンが普及し始めていたとはいえ、まだまだフィーチャーフォン、いわゆるガラケーが支配的だった時代です。

モバマスもまたガラケーユーザーが遊ぶことを前提として設計されていて、事実、リリースから数週間後にようやくスマートフォンで遊べるように対応したほどでした。
そんな加熱するアイドルへの愛とガチャへの購買意欲が、ついにひとつのうねりを生み出します。

 

2020年5月、消費者庁が「コンプリートガチャ」、略称で「コンプガチャ」と呼ばれるガチャの一形態を景品表示法違反とする見解を出し、各ゲーム会社へ中止要請を出す流れとなりました。

 

当時はモバマスの他にも『探検ドリランド』などもこぞって採用していた方式で、最終的に求める景品を得るために10万円以上の課金が当たり前になっていたと言われます。

 

消費者庁はこれが「不当景品類及び不当表示防止法」で禁止している「カード合わせ」に該当すると判断。
ついに見解を発表し、各社とも警告を受けて中止し、今に至るまで開催されていないという流れになります。

 

モバマスだけが悪いわけではないけれど、多額の売上を達成していた代表格として名前が報道されるに至った。
リリースから半年で、そこまでの影響力を保持していたという衝撃でした。

 

 

 

200人にも迫る個性的なアイドルたちが舞う

その後、モバマスは改めてコンテンツの充足に力を入れつつ、そのブランドを守り育ててきました。
当時の売れ線同期である『探検ドリランド』や『怪盗ロワイヤル』、『ガンダムカードコレクション』等が往時の勢いを失う中、デレステという最高の出藍の誉れを生み出せたことは、ブランドとコンテンツを育てることの大切さを示していると言えるでしょう。

 

では、何がモバマスの、そしてデレステの人気を支えているのか。
いよいよ時間軸を現在に戻し、本番であるデレステの紹介へと入っていきたいと思います。

 

デレステに出てくるアイドルは、とにかく数が多いです。
2020年8月の時点で、総数185名。

リリース後にコツコツと新アイドルが追加されていき、そのどれもが個性的で多くの推しファン……アイマスの伝統に沿って言えば、担当プロデューサーを生み出してきました。

これらはまたリリース当初のキャラと人気を食い合うことなく、絶えず多くの新規を生み出しながら成長し続けてきたというのが驚異的な部分です。

 

あまりの多さにボイス付きボイス無し問題が生まれ、それは現在にもつながる軋轢にもなっているのですが、それほどに「入れ込みたくなるアイドル」が存在するのがデレステのすごいところ。

 

とかく個性が輝きまくるとインターネット上では不思議なミームと化し、「ゲームは知らないけど、あの子は知っている」という現象が起きることもありました。

 

最も顕著な例は、「毎週のように競馬で外して『もう競馬やめる!』と泣き叫んでいるあの子」こと「本田未央」でしょうか。
もちろん、本田未央は実際にはそんなことを言っていません。

 

アニメ版のシンデレラガールズで「もういいよ、私、アイドルやめる!」という一連の流れがあったのですが、その出来の良い一瞬を切り取って馬券で負けた競馬ファンになぞらえたのが不思議にハマり、大いにバズったのです。

 

人気絶頂のうちに連載を無事完結したマンガ『鬼滅の刃』にしてもそうですが、アニメがひとつの起爆剤になったのは間違いありません。
鬼滅にしてもシンデレラガールズにしても、いずれもアニメの評判が非常に良いことが挙げられます。

 

アイドルマスターについては本家のアニメの評判も非常に良いため、こうしたマルチメディア展開が上手くいっているのもまた、ブランディングの成功を示す証拠と言えるでしょう。

 

 

 

少女たちは次元を超えて活躍する

さらに、メディアを飛び越えての活躍はこれだけにとどまりません。
アイドルたちはついにリアルへと進出します。
というより、アイドルマスターとはまさしくそういうコンテンツ。

 

アイドルと、彼女たちを担当している声優さんたちが渾然一体となり、ともにスターダムを目指して駆け上がっていく壮大な物語なのです。
プロデューサーであるプレイヤーたちは、その様子をじっと見守りながら、大きな存在となっていく「我が子」に勇気と元気をもらう。

 

そうした関係性によって、熱狂はとどまるところを知らずに広がっていきます。
デレステが爆発的な人気を博す前から、すでにアイマスのオリジナルメンバーはライブ活動を行っていました。

 

それとは別に、まず、デレステのメンバーたちによるリアルイベント活動が始動。
猛烈なトレーニングによって鍛え上げられた生のパフォーマンスに、「これがアイドルの輝きか」と多くのプレイヤーが感動を覚えることになります。

 

そうして、ついにアイドルマスター本家のメンバーとの合同でのライブ開催。
いわゆる765プロオールスターズと呼ばれる始まりの面々との共演は、シンデレラガールズという看板が真に認められた瞬間でもありました。

 

アイドルマスターという壮大なコンテンツは今や女性アイドルだけでなく、男性アイドルにまでその幅を拡大しています。
当初、コンシューマ版『アイドルマスター2』の発表会において男性アイドルグループ『Jupiter(ジュピター)』の登場がお披露目された折には、既存のユーザーからはとてつもないバッシングが起きました。

それを契機にアイマスから離れた人たちも多くいたほどです。

 

しかしながら、制作陣は諦めず、ジュピターを担当する男性声優の皆さんも努力を怠らなかった。
彼らはストーリー上でも重要な役割を果たし、その活動はやがてユーザーからの支持と信頼を得るに至り、ついに『アイドルマスター SideM』という女性向けアイマスの誕生へとつながります。

さらに、この『Mマス(エムマス)』がモバマス的立ち位置だとすれば、3D化かつ音楽ゲーム化した『アイドルマスター SideM LIVE ON ST@GE!』はデレステ的立ち位置と言えるでしょう。

 

こうして、今やアイドルマスターの登場アイドルたちが集うライブは男女入り乱れての華やかなものとなり、それは男女やその他の性別を問わず、広く受け入れられることになったのです。

 

その基幹ゲームのひとつとして、デレステは燦然と輝いています。
アイマスコンテンツにしても、決して成功作ばかりではありません。
派生作品でも主流になれぬままであった作品もあります。

 

そんな中、多数のアイドルを投入しながらも、ひとりひとりの個性をしっかりと育て、あらゆる関係者やファンがそれを生かすための最善の努力を果たしたデレステというコンテンツは、メディアミックス作品の象徴的な1本となりました。

 

そこにはもはや2次元や3次元といった古い価値観は存在せず、ただ応援したいアイドルと、彼女ら彼らの活躍を見守るプロデューサー、すなわちユーザーという構図が、世界が、美しく構築されているのです。

 

 

 

「変なアイドル大集合」から「人生を救うアイドル大集合」へ

最初期のモバマスのキャッチコピーは「変なアイドル大集合!」でした。
言ってしまえば、本家アイドルマスターが王道を行くアイドルの挑戦、挫折、苦難、その末の栄光を描いていたのに対し、「こんなの変なコたちもいますよ」というアプローチからの始まりだったわけです。

 

事実、数回開催されたコンプガチャで目玉アイドルになった対象として、「働いたら負け」という強烈な文言が描かれたTシャツを着ている小さな女の子、双葉杏がいました。

 

この双葉杏は今でもなお人気アイドルのひとりとして活動していますが、「こんなアイドルもおるんか?」というアプローチから作られたキャラ造形は、いかにも「変なアイドル」の冠にふさわしい存在と言えるでしょう。

 

しかし、今、デレステに存在する少女たちについて、個性的であると言われることはあるし、確かに変人みめいた一面を見せると評価されることはあっても、「変なアイドル」と呼ばれることはほとんどなくなっています。

 

それほどまでに、彼女たちは生きている。
決して楽じゃない道を歩み、努力を重ねているのだと、誰もが納得しているのです。

 

そんなデレステ、ひいてはモバマスのアイドルの姿を見て、人生が変わるほどの影響を受けたプロデューサーも少なくありません。
その象徴的な存在として、「らぁめん城ヶ崎」というお店を紹介しましょう。

 

名前の通り、群馬県みどり市にあるラーメン屋で、2020年4月にプレオープン、その後、正式オープンを迎えました。
新型コロナが猛威を奮い、緊急事態宣言で外食産業が壊滅的な打撃を受ける中での、強い逆風を受けながらの開店です。

 

それでも、らぁめん城ヶ崎の店主がツイッターで語ったその愛に、誰もが胸を打たれ、足を運び、2020年8月現在ではすっかり地域の人気店として親しまれるようになっています。

このお店の店主は、デレステに登場するアイドル「城ヶ崎美嘉」に強く心を打たれ、人生を変える決意をしました。

 

かつて「歴代最低の社員」とまで言われたこの方は、アニメ版のデレステ……すなわちデレアニを見て、ステージで最高に輝く城ヶ崎美嘉が影で猛烈に努力しているのを見て、自らの人生を変えようと決意されたのです。

 

その気持ちは決して衰えることなく、修行に修行を重ね、とうとう自分の店を持つまでに成長。
屋号に愛する担当アイドルの名前をつけました。

 

らぁめん城ヶ崎のすばらしいところは、「落ちこぼれがアニメのアイドルを見て自己変革を成し遂げた」だけに留まりません。
それだけなら、同好の士が集うお店になるのが精々です。

しかし、この方は熱烈な努力によって、舌の肥えたラーメン好きを唸らせるほどの腕前を身につけました。
その劇的な進化を促したのが、城ヶ崎美嘉という架空の、しかし、現実に存在する「努力を欠かさない人気アイドル」の存在だったのです。

 

変なアイドル大集合と言われたころ、城ヶ崎美嘉は初期からいるメンバーとして、確かに「ギャルだけどアイドルやります」のような存在でした。

しかし、彼女は少しずつ公開されていったストーリーの中でキャラ性を確立し、ついにはアニメにおいて主人公格の子たちよりも先にデビューして人気を獲得しているという設定を受け、さらには「そんなトップアイドルでさえ、いや、トップアイドルだからこそ裏ではすさまじい努力を重ねている」という姿を見せるに至りました。

 

そんな一人の少女の成長と重なるように、一人の男性の人生は輝きに向かって走り始めたのです。
アイドルとは「偶像」という意味であり、実際にそれになぞらえられることも少なくありません。

 

握手会に行くために何万円、何十万円と支払う。
ライブで騒ぐなどの問題行動を起こす。

 

そういった「悪しきドルオタ」のエピソードは、頻繁にゴシップ好きの人々の耳を楽しませます。
彼らは現実から逃げ、近づけるはずのないものに時間と資産を浪費する哀れな存在なのだ、とばかりにせせら笑います。

 

この一面は、決して否定されるものではありません。
でも、改めて見てください。

 

立方体には6つも面があるように、アイドルによって人生を変えられる人にも、ひとつひとつの人生の形があります。
らぁめん城ヶ崎の店主さんのエピソードは、その中でも最上級に輝きを放つ「シンデレラのガラスの靴」です。

 

そして、デレステに、モバマスに、アイドルマスターというコンテンツには、人間を大いにポジティブに変える魔法の力があるのだと、ぜひとも知っていただきたく思います。

 

良いゲームとは、きっと、運命を変える力を持っている。
そのように感じてなりません。